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《ワインについて》
ファセットはバルバレスコ村を代表する名高いクリュのひとつ。南向きの急斜面に広がる円形劇場のような畑は、石灰質砂岩と石灰質泥灰土、粘土を含む複雑な土壌によって構成され、そのテロワールがもたらす力強さと洗練さを見事に表現しています。
バラの花束や熟したチェリー、ブラックベリー、ドライフルーツ、ナッツ、湿った土、葉巻、シダーウッド、ほのかなバニラが絡み合う濃密なアロマ。パレットには凝縮した果実味が真っ直ぐに広がり、タンニンは豊富かつ非常に細やかで、骨格のあるストラクチャーを形成しながら全体を包み込みます。中盤にはスパイスやハーブ、ミネラルのニュアンスが重なり、味わいは徐々に深みを増します。塩味やほろ苦さなど、複雑味を伴いながらも、非常に澄んだ味わい。熟成によりさらに気品を増すポテンシャルを秘めています。
《生産者について》
オーストラリア出身ながら、いまやバルバレスコを語る上で見逃せない存在となった異色の生産者、フレッチャー。アデレード大学で醸造学を修めた後、ブルゴーニュやヤラ・ヴァレーで研鑽し、2007年にピエモンテへ移住。名門チェレットで赤ワインの醸造責任者を務める傍ら、自身のワイナリーを立ち上げました。伝統に深い敬意を払いながらも、移民だからこその自由な視点で、ピエモンテのクラシックを静かに再解釈しています。
拠点はバルバレスコ村の歴史ある旧駅舎。廃駅に命を吹き込み、カンティーナ兼住居へと変貌させました。畑はスタルデリやロンカリエをはじめ、バルバレスコ、アルバ、ロエロ周辺の複数区画に広がります。自ら管理する畑はすべてオーガニック認証取得済および転換中。一部ではビオディナミ農法も取り入れながら、健全な生態系を維持しています。
醸造においては、近年注目される“インフュージョン(浸出)”スタイルを採用。自然酵母による自然発酵を発生させ、1日おきに手作業で優しくピジャージュ、抽出は必要最小限にとどめます。最終的にプレスを行うのは、すべての糖分が完全に発酵してドライな状態になってからです。
熟成には300Lの小型の樽を用い、小さなロットを分けて綿密に管理。主に10年以上使用した古樽で2年近く熟成させます。その結果、穏やかな醸造にもかかわらず、繊細で奥深く、熟成能力に長けた、驚くほどエレガントなワインが生まれます。
ラベルを見ずに試飲すれば、若きオーストラリア人の手によるものとは思えないほど静かで成熟した佇まい。“数十年の試行錯誤から得た知見を基に、キャリアの晩年を迎えた70代の生産者が醸造したようなワイン”と言っても大げさではありません。派手な凝縮感や誇張された樽香ではなく、時間とともに深まる優雅さと均衡美。フレッチャーのワインは時代を超えた穏やかな旋律へと進化を遂げています。
